経済学部生の読書感想文

要約や感想を書いていきます

『資本主義だけ残った 世界を制するシステムの未来』ブランコ・ミラノヴィッチ



第一章要約

 世界に残っている経済システムは、資本主義のみとなったが、資本主義にはリベラル能力資本主義と政治的資本主義の二つのタイプが存在する。代表的なのはそれぞれアメリカ、中国である。

 中国が主導するアジアの経済的成長により、アジアと欧米での経済的な力は均衡しつつある(ただし成長に伴いアジア各国内での不平等は拡大した)。政治的資本主義は、政治的エリート層により大きな自主性を与えるため魅力的であるのに加えて、高い成長率を約束するかのように見えるため、一般大衆をも惹き付ける。一方で、リベラル能力資本主義の一番の売りは、民主主義ならびに法の支配は、それ自体に価値があり、これらが技術革新と社会的移動性を保障することで、おおむね平等の機会が与えられるとしているところだ。



『ゼロからわかる 経済学の思考法』小島寛之

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今日はこちら。

面白いか面白くないかというと、(私は経済学部生なので)面白かったです。

難しいか難しくないかで言うと(数弱の私には)ちょっと難しかったです。

おすすめかおすすめじゃないかというと、(商談をするかもしれない、もしくはしている人と、合コンで最適なカップリングを実現したい人と)経済学部生にはおすすめです。

 

タイトルの訂正から。

まず、ゼロからは分かりません。需要・供給曲線をとりあえずは知っている人と、ある程度数学に耐性がある人なら大丈夫だと思います。まあ私は高校の定期テストの数学では赤点連発、最後のセンター試験数学ではⅠA・ ⅡB 平均で5割しか取れず、その前年は分からない2桁の空欄に欅坂(現役受験した時はまだ欅坂だった)にあやかって46と書いた私でもついていけたので、大半の人は条件をクリアーしていると思います。

 

次に、経済学の思考法と言いつつ、経済学の全般に言及するわけではありません。この本はミクロ経済学で最も重要な、需要・供給曲線についての話にほぼ終始します。なので、これを読んだら経済学者の思考法が丸わかりになる!とはいきません。がっかりした人のために私が代わりに答えると、経済学の思考の本質とは、「人間が完全に合理的にしか動かないという前提のもと、全然合理的じゃない人間の経済活動をできるだけ数学に還元して記述すること」です。苦手分野の世界に来ちゃった、、、、。これは現時点での持論に過ぎないのでふーんくらいに思ってください。

 

では何が分かるか。

突然ですが皆さんは、自分の中に需要曲線を持っていますか?需要曲線とは、ある商品について「この値段だったらこのくらいの量購入しよう」というのをグラフにしたものです。売り手から見た供給曲線は「この値段だったらこのくらいの量売ろう」となるわけです。持ってる人、いないですよね。いたら完全に変態です。

この需要曲線と供給曲線が交差する点(経済学的には均衡点と言います)において、価格と取引量が決まるという理論なんですが、そんなの持ってねーよ!!というところから話が始まります。この需要・供給曲線のコチコチの理論を、一般的な人間の感覚に落とし込む本と言っても過言ではないと思います。

もう一つ。経済学は、どうやら「小難しい」、「ちっとも現実的でない」というレッテルを張られているようです。受験やり直してもいいですか?ここで悲しい気持ちになった経済学部生を、ちょっとだけ元気にしてくれるのもこの本の効用です。

この2つが、主にこの本から得られるものと言ってよいでしょう。

 

それで、この本は大きく2つのパートから成っていて、前半はオークションの話、後半はゲーム理論の話です。

ゲーム理論と聞いてモンハンやりたくなっちゃった人のためにもう少し書いて終わりにしたいと思います。

 

ゲーム理論っていうのは、「人間の行動をすべてゲームと見なして、プレーヤー全員が、他のプレーヤーの行動を予想しながら、自分ができるだけ得をするように自分の採る戦略を考えるもの」のことです。実際の社会と同じじゃん!と思った高校生以下の人は、是非経済学部への進学を検討してみてはいかかでしょうか。ともかく、このゲーム理論が色々なことに応用できるわけです。商品の価格を決めるだとか、商談でいい結果を出すだとか、合コンで…................................(以下略)。ゲーム理論は要するに、参加者とのやり取り―――商取引だとか関係を結ぶだとか―――の中で、自分の利益を最大化するように動くわけです。商談ならできるだけ高く自分のものを売れるように、合コンならできるだけお気に入りの相手と付き合えるようにってことですね。

これだけ聞くと簡単なんですが、実はここに経済学が現実的じゃないとされる理由が詰まっているように思います。ゲーム理論では、利益が数字で与えられるのです(そうじゃないのもあるかもしれませんが)。商談なら分かりやすいですね。自分が商品を売ろうと思うとき、この価格以上ならいいかと心に決めて商談に臨みます。買い手は、この値段以下なら買ってもいいなとなるわけです。それで、価格がこの2人の心の中の幅のどこかに落ち着くと。

しかし、現実に、商談の前にこの価格以上なら…と心に決めていく人はそう多いでしょうか。ゲーム理論を使うというのは、すべての物事の価値を自分の中で定量化するということです。物の値段ならいいでしょう。合コンなら、目の前の異性を見比べて、こいつは何点、こいつは何点…と点数化するということになります。もちろんこういう人もいるかもしれませんが、全員が全員そうではないでしょう。でも、ゲーム理論は、人間は全員合コンで相手に点数をつけるという前提のもと議論が進むのです。

 

経済学の非現実っぷりが伝わったでしょうか。ちなみにゲーム理論はわりと(経済学史的に)最近できたもので、これでも経済学を少しは現実の方向に推し進めた大発見だそうです。数学と非現実。経済学部生としての諦念は深まるばかりです。

 

 

 

ちなみに私は合コンは未経験です。

 

 

『正しい本の読み方』橋爪大三郎

初めまして。

最近よく本を読むようになったので、備忘録として色々書いていこうと思います。

 

記念すべき第一冊はこれです。

 

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本を沢山読むことを決めたので、まずは意識的に本の読み方についての本を買ってみました。三冊くらい読んで、一つは途中で肌に合わないと感じたのでいったん放置、一つは読書の方法論としては分かりやすくてそれなりに有益(今度記事にするかも)、最後の一つがこの『正しい本の読み方』で、一番得るものが多く面白かったので紹介します。

 

まずこの本の特徴として、難しいこともかなり分かりやすく書かれています。難解な単語はあまり登場しないし、一文々々が短いので、読んでいて躓くことがほとんどない。著者の橋爪大三郎社会学者で、文中によく哲学っぽい話が出てくるのに、全く重苦しい感じは受けない。文体も優しいおじいちゃんといった感じで、尖ったビジネス本みたいなものを読んだ後にこの本を読むと暖かい印象すら受ける。それなのに、例えばニーチェとかレヴィストロースの小難しい思想が抵抗なく頭に入ってきて、どうやったら他の本についても同じような読書体験が得られるかまで教えてくれる。手っ取り早くニーチェとレヴィストロースを理解してカタルシスを得たい人にもおすすめです。

 

内容に入ります。

この本は基礎編、応用編、実践編に大別される。そこからさらに章立てされていって、全部で8章に分かれています。全部書く自信がないので、自分が書けそうなところ、気に入ったところだけ書いて、それ以外はすっ飛ばします。興味が湧いたら購読してみてください。(ちなみに、本の読み方という技術的なことについては、基礎編の最初の三章で網羅できます。ニーチェとかは応用編で出てきます。)

 

第一章

「なぜ本を読むのか」ということについて書いてあります。「知識を得るため」とか「儲けるため」とか書いてあったらこの本をぶん投げていたかもしれません。しかし、人間の個別性だとか、生まれつきの自由と不自由だとか、哲学っぽい話題から出発します。平たく言えば、「自分とは何か」問題です。全体として、哲学っぽい話題に寄って議論が進むのがこの本の特徴ですね。

結論はというと、ちょっと端的に言えるような内容じゃないのですが、自分とは何か問題に関係するような、深い結論が用意されています。気になる方は本に直接聞いてみてください。(私の能力では一般化できなかった、、、)

 

第四章

この章の主題は、「本から何を学べばよいのか」です。思想には、構造と意図と背景があると言います。マルクスの思想にもレヴィストロースの思想にもこういうのがあるわけです。そこで、この人たちを例にとって本から学ぶ「読み方」を伝授してくれます。この章が最も読む価値がある箇所だと思います。

 

第五章

この章は、本は別に記憶しなくていう話に始まって、学生の試験勉強の方法にまで言及します。特に、指定の範囲があって、その範囲で覚えたことを試験で試されて…みたいな教育を受けさせられる、高校生までに特に読んでもらいたいです。私が高校生の時にこれを読んだら泣いたかもしれない。(盛りました。)

 

 

そろそろ疲れてきたのでこの辺でやめようと思います。とにかくこの本には、タイトルの「本の読み方」のテクニックに留まらない重要なことが書いてあります。私自身も折に触れて読み返すことになると思います。難しい概念をスカッと説明してくれる副作用もあります。第一回のブログの題材としてあえて選んだくらいだから、最近読んだ本のなかでもかなり気に入ってるし、おすすめ度も満点です。

 

それではまた次の記事で。

 

 

追記

 

書き終えてみたら、自分にとって忘れるべきでないことの抽出よりも、本の紹介に終始してしまった気がするので、簡単に教訓をまとめておきます。

 

・本と本には関係がある

・入門書は偉大

・クラシックスはとても重要な事柄を世界で最初に書いた本

・読んだ後はボロクソ言っても、読んでいる最中は素直に読む

・読むときは感情を封印した方がいい(マジか)

・構造(文が全体の中で果たす役割)と意図(他の本との関係)と前提(議論の下敷き)を見抜く

 

読むことについてのテクニックとしてはこんなもんでしょうか。ちなみにニーチェの場合は意図がリカードとの対立、前提がヘーゲル弁証法ということになるみたいです。要するにリカードヘーゲルを知らずに『資本論』の理解はあり得ないと。求めるレベルが高すぎる気もしますが、逆を言えばこのレベルに達しないからニーチェとかを読んでもずっともやもやする、ということにもなりますね。いつか入門書に頼らずこういうのを見抜いてやりたいものです。